へメロカリスの魅力は、花弁はベルベットのような光沢を持ち、茎は強く細くしなやかなです。梅雨時の曇り空にひと際美しい花を風にそよがせる姿は、梅雨の鬱屈した気分を吹き飛ばしてくれます。
ヘメロカリスは日本の気候との相性が良く、乾燥多湿にも強いのも特徴です。一度植えて害虫に気をつければほとんど枯れず毎年花を咲かせます。園芸が初めての方にもオススメの花です。
ヘメロカリスは別名「day lily(デイリリー)」といわれるように、ひとつひとつの花の命は短く一日で萎んでしまうためますが、一本の花茎からだいたい10~30個のつぼみをつけ、一斉には咲かず時期がずれて開花するため長く楽しめる花です。
ヘメロカリスは、ユリ科ワスレグサ属の宿根草です。原産地はアジアの極東地域。日本では、霧ヶ峰や尾瀬に咲くニッコウキスゲや、山里に咲くノカンゾウ、ヤブカンゾウ、夕暮れにほのかな香りを漂わすユウスゲなどの野生種が、その仲間として知られています。野生種も園芸種も、すべてヘメロカリス属に分類されますが、一般的にヘメロカリスというと、品種改良した園芸品種を指します。
中国では、太古の昔から食用や薬用としてヘメロカリスを栽培していました。それがヨーロッパに渡ったのは16世紀後半のこと。欧米におけるヘメロカリスの発展に大きく貢献した人物としては、ジョージ・イエルド(1843~1938年)や、その友人であるエイモス・ペリーらがいますが、彼らの功績は、1940年代末から50年代にかけてのアメリカで、さらに大きく開花しました。 その中心にいたのが、「ヘメロカリスの父」と呼ばれるアーロー・ B・スタウトです。彼はヘメロカリスの分類や育種を精力的に進め、1934年にヘメロカリスのバイブルとも言える「DAYLILIES」を出版しました。現在でも、アメリカヘメロカリス協会が年次最高賞に彼の名を冠するほど、名誉ある業績を残しています。
欧米で育種されたヘメロカリスのうちいくつかは、昭和初期に日本に持ち込まれていたようです。しかし野生種と大差ないと映ったのか、人々の関心を集めるには至りませんでした。 そんな中でも静かに日本での普及に努めてきたのが、ハナショウブの育種家としても知られる平尾秀一氏です。同氏に師事した人の中には実生を始める人も現れ、交配が進みましたが、それでも国内においては日の目を見ることはありませんでした。
残念ながら平尾氏は1988年に亡くなりましたが、生前に情熱を込めて精力的に執筆されていた平尾氏のヘメロカリスの記事から当時多大な影響を受け、何度か手紙を通じての交流もあり現在も自分らしいスタイルで育種と作出に取り組み続けているのが、岡本自然農園の岡本守夫氏です。アメリカで進む品種改良は、色も形も派手なものが主流。それはそれで魅力的ですが、「日本人の持っている美意識を突き詰めていくと、明らかにアメリカ人のそれとは違う美しさにたどり着く」と岡本氏は語ります。 同園が有する800種類を超えるヘメロカリスのコレクションは、すべて岡本氏自身が30年にわたって試行錯誤を繰り返し、大切に育ててきたもの。「ヘメロカリスは“パーフェクトプランツ”と呼ばれるほど、驚くほど種類が多く、なおかつ栽培が易しい植物です」(同氏)。その想いがたくさん詰まった花々で、ぜひお庭を彩ってみてはいかがでしょうか。
多くの原種にみられるような花型。野性的な細い花弁でシャープな印象の花
野生種から、改良を進めたふくよかな幅広の花弁
広弁よりも丸っぽい花弁で、全体的にもコロンとした印象の花弁
縁がフリル状になり、可愛らしい印象の花弁
多弁化した花弁
通常花に比べ細長く伸びた花弁
花弁がねじれたりカーブしたり、花弁とガクの形や大きさが極端に違うものや、 スパイダー咲きと通常花の中間的な細弁のもの。以上の5つにわけられる
花弁の中心部に他の色が入る
花弁の中心部に他の色が入る。蛇の目との違いは、周囲よりも明るく白や黄色に色抜けしている
花弁に比べてガクのほうが淡い色である
花弁とガクが違う色である
地色以外の色で縁取りのある花弁
花弁を縁取る覆輪がぼかされている
花弁中心の喉元に明るく冴えた緑色がはいる