春は、福寿草とかイカリソウ、エビネなど、たくさんの花が咲きます。でも、5月末くらいになると、みんななくなってしまう。そこからの咲く花って何かないのか。探して出会ったのがへメロカリス。でも、へメロカリスも終わったら、来春まで何もないじゃつまらない。また探して見つけたのがリコリス。こんな風に私の場合、一年中いつもどこかで花と接していたい、万年お花見していたい。そんな想いが根底にあるのかもしれません。
岡本自然農園 岡本 守夫 氏
ヘメロカリスとの出会いは、30年くらい前になります。園芸雑誌などでは時々記事を見かけていたものの、実際の花にはなかなかお目にかかる機会がありませんでした。ある時、花時期ではありませんでしたが、とある農園で偶然ヘメロカリスを見つけて、そこで数種類を分けていただいたのが始まりです。これらの品種を交配して、「新しい自分の花が作れるかもしれない」という期待感でワクワクしていました。非常に丈夫で栽培しやすいということも魅力でした。
一方リコリス(ヒガンバナ類)は、お彼岸の時期に突然に真っ赤な花が咲き、毒があるといわれていることなどから、何か不気味であの世とも繋がりがありそうな、あまり良くないイメージを持つ花でした。そんな時、偶然テレビでニュースを見ていると、白いヒガンバナが写っていたのです。ヒガンバナといえば「赤」以外は全く想像していなかったので、これは私にとっては衝撃的な映像でした。その後、園芸店や種苗会社などをあちこちを探してみましたが、なかなか白いヒガンバナは見つからず、ようやく手に入れることができたのは、それから5年くらい後でした。これも30年以上前の話です。リコリスは種子を蒔いてから花が咲くまで時間がかかるものの、交配して新たな品種が作れそうなこと、育種がまだあまり進んでいないことが、さらにこの花の栽培に向き合う意欲を搔き立てました。そしてこちらも栽培が容易であることも魅力でした。
新しい品種が作れるというのは、花を栽培していくうえで大きな楽しみのひとつです。品種改良をしていく時に、行き当たりばったりではなく、自分の頭の中に目標とする花のイメージをある程度明確にしておくと、理想とする花への到達は早いかもしれません。とは言っても、偶然にすばらしいものが出たり、思いもよらない花が咲いたりすることも時々あり、そこがまたおもしろいところでもあります。
ヘメロカリスの場合、交配して実った種子を採って播き、それが育って花を付けるまで約3年かかります。初花が咲いた時に、今までにないような色や形など、魅力的な要素を備えた花が咲いた時には、嬉しさこの上ありませんが、大方はその交配親にも及ばないものが圧倒的に多く、ほとんどが無駄な苦労となってしまうことも少なくありません。品種改良には、そうした多くの無駄と犠牲を覚悟しなければなりません。厳しい目でどれだけ捨てられるかが、より優れた花を選び抜く鍵となります。
リコリスに至っては、種子を蒔いてから開花するまで、早くても5年を要し、10年かかってしまう場合もあり、とても気の長い話となります。その分、初花が咲いた時の嬉しさは格別です。
ヘメロカリスもリコリスも、実際に栽培してみて嬉しいのは、何といっても丈夫で育てやすいということです。それに加えて、どちらも非常にバラエティーに富んだ数多くの品種が揃っています。ある程度ヘメロカリスの事を知っている方でも、私の農園で実際にヘメロカリスの花を目にすると、多種多様な花の変化に驚き、あらためてこの花の良さに気付かれるようです。少ない手間で立派な花を咲かせ、見る人に大きな満足感を与えてくれるヘメロカリスは、アメリカでは「パーフェクトプランツ」と呼ばれており、花壇や庭園の主役、脇役どちらにも重宝され、大変人気があります。日本を含めたアジア極東地域が原産のこの植物が、我が国では認知度が低いのは本当に残念なことです。また、現在国内で出回っているほとんどの品種がアメリカで改良された品種です。私たち日本人の持つ美的感覚を取り入れた、「日本のヘメロカリス」の開発と普及は今後の課題です。
またリコリスは、これまであまり育種が進んでいなかったので、近い将来もっと観賞価値の高い、すばらしい花が生まれてくることでしょう。ヘメロカリスもリコリスも、「世界に誇れる日本の花」になってほしいという期待を持っています。
繰り返しになる部分がありますが、もっとへメロカリスやリコリスの情報を発信し、それを求める一人でも多くの人たちに届けたいという思いがあります。そのためには直販の力をつけていかないと、なかなか私たちの声を届けることは難しいのが現状です。だからこそ、AGSさんにも、その力を貸して欲しいと期待しています。また、逆にへメロカリスやリコリスに対するお客様からの声があれば、些細なことでもかまわないので、私たちに伝えてほしい。そんな両者の架け橋になっていただけたら、とてもうれしいです。
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